私の朝鮮語学習歴

2026/02/01

私の朝鮮語学習の前提

私はあえて朝鮮語と呼んでいます。それもこれも、植田晃次(2025)『日本語でのthe Korean languageの「呼称問題」の問題を考える : 知と情の相克を超えて』大阪大学大学院人文学研究科言語文化学専攻に依拠しています。すなわち、地域を朝鮮半島、民族を朝鮮民族と呼ぶ以上、話されている言語も朝鮮語と呼ぶのが適切ではないか、と考えるからです。韓国語と安易に言うと、日本でいう韓国(朝鮮半島の南半分の国家)にのみ興味関心があり、朝鮮民主主義人民共和国や中国朝鮮族をはじめとするいわゆる在外の僑胞の人たちのことは視野に入れていないのではないか、と思われてしまう可能性があるためです。

私は韓国に4回(トランジットを含めると6回)行っていますが、高校時代の1回以外はすべて出張で行ったため、ほぼ行ったことがありません。また、自身の親戚縁者は日本人しかおらず、在日韓国・朝鮮人の友人もほとんどいない、朝鮮語を学ぶには適しているとは言いづらい環境です。

朝鮮語の学びはじめ

英語が苦手で悶々としていた高校生のころ、あるとき、何がきっかけになったか忘れましたが、父親から「北朝鮮には旅行で行ける」という話を聞きました。あの近くて遠い国、北朝鮮に行ける。それ以来、北朝鮮に興味を持ち始め、さっそく高校の図書室にあった本を借りることにしました。しかしほとんどが「韓国語」と書いた本ばかりです。私はソウル言葉ではなく、平壌言葉を学びたかったのです。そのため、唯一、「韓国語」とついていなかった、以下の本を借りました。

入門・会話 スタンダードハングル講座〈1〉

あの文字を「ハングル」と呼ぶのは南側で、北側では「チョソングル」(朝鮮文字)と呼ぶことを知ったのは後年のことでした。

私はこのシリーズの第1巻を、毎日少しずつ読みました。どの課もおろそかにせず、分かっても分からなくても、出てくる文章を丸暗記していきました。そして、日常生活で耳に聞こえている会話や駅でのアナウンスなどを、脳内で朝鮮語に変換していました。そうやって少しずつ身に着けていきました。

朝鮮語を人から教わるようになったのは大学生になってからです。小学館から出ていた『朝鮮語辞典』という本も手に入れました。当時、オンラインではYTNという韓国のニュース番組が無料で放送されていたので、それを見て勉強したり、調子のいい日には北朝鮮の平壌放送でスパイ向けに数字を読み上げる乱数放送が聞こえましたから、それで数字の聞き取りの練習を行ったりしていました。

どうみてもパリピとは程遠い、ネクラな学生です。

振り子のような朝鮮語学習ブーム

大学時代までは、朝鮮語学習のモチベーションが高くなるときと低くなるときが、まるで振り子のように交互にやってきました。しかし、大学でハングル(これも中立を保とうとしてはいますが、南側の表現です)の授業を取っていたところ、KBS(韓国の国営放送)の天気予報がほとんど聞き取れませんでした。同級生たちはちゃんと聞き取れているのに、私はほとんどわからなかったのです。これで、朝鮮語には適性がないと判断し、学習のモチベーションは低いままとなりました。「ハングル」能力検定も3級は合格しましたが、準2級には合格していないままです。

朝鮮語の縁

結局、朝鮮語で身を立てることはあきらめ、太平洋地域の研究をしに大学院に行きました。すると、そこでは平壌言葉を研究する授業があるではありませんか! もちろん、修士の2年間はその授業を取り、平壌文化語(ある一時期、平壌ことばはそう呼ばれていました)の綴りや書き方を習い、『金日成回顧録 世紀とともに』などを読み進める授業は、それはそれは楽しいものでした。

今に至るまで朝鮮民主主義人民共和国に行く機会には恵まれていませんし、コロナ以降観光客を排除しているので行ける状態でもありませんが、中国の朝鮮族自治区には行ったり、延吉では対岸から共和国の南陽市を眺めたり、北京やバンコクの朝鮮民主主義人民共和国大使館前でマスゲームの宣伝などを見たりと、共産趣味で満足しています。

高麗航空のオフィスにもいくつか行きましたが、北京支店ではタイムテーブルをもらうことに成功したものの、台北支店は撤退済み(入居していたビルの警備員さんに確認済み)、バンコク支店はバスで苦労して行ったものの営業していなかったりと、それなりに苦労しています。テヘランでも大使館には行ってみたかったのですが、ペルシャ語力が足りませんでした。

北朝鮮の小説との出会い

その後、仕事をし始めるようになってから、確か佐藤優が書いていたのだと思いますが、小説にはその時代の精神が現れるというような文言を読み、ひらめきました。朝鮮民主主義人民共和国の小説を集めて、年代ごとに分析したら有意義な研究になるのではないか、と。これは私のライフワークにもなりそうであり、一種の天命だと思っています。

朝鮮民主主義人民共和国の小説には、時々リーダーが出てきます。金日成、金正日、金正恩といった指導者です。ああいう国ですから、もちろん、最高指導者のお名前の出る小説は(出ない小説も)検閲を通っています。検閲を通過した小説だからこそ、それぞれの年代の小説を分析することによって、それぞれの時代で打ち出したいリーダー像が見えてくるのでは、と踏んでいます。いまは書籍も手に入れづらくなりましたが、日本ではそもそも朝鮮民主主義人民共和国の小説がそろっている大学は、富山大学しかありません。(ほかにもある場合、ご教示をお願いします。)そのため、私は自分自身で本を買い集めることにしました。富山大学には到底追いつかない、数十冊の規模ですが、恐らく日本には1冊しかないであろう本もいくつか持っています。これらの本は未読ですが、定年後、時間ができたら読み進めていきたいと思っています。

ただ、私も特にこのライフワークにはこだわりはないので、どなたか私以上の熱意をもって成し遂げたい方がいらっしゃったら、本はお譲りします。(これまでに何人にも遠慮されています。)なお、朝鮮民主主義人民共和国の小説を集めているのは全国に5人程度だとか。

参考文献:跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体

これから

せっかくの昔取った杵柄なので、韓国や北朝鮮の人との交流が持てればいいのですが、こればかりは縁のものなので、自分自身が一人であがいてもどうしようもありません。中国に出張に行ったとき、夜中にこっそりホテルを抜け出して北朝鮮国営レストランに行ったり、1年間の北京駐在時には家の近所にあった北朝鮮国営レストランに入り浸ったりして、人間万事塞翁が馬のような朝鮮語の使い方をしています。

北京駐在時には1か月目にして北朝鮮産の大同江ビールの入手ルートを開拓し、日本語、英語、中国語、朝鮮語の出来る私はレストランのウエイトレスさんから「産業スパイ」とあだ名されるなど、楽しい交友もできました。今後も、つかず離れずで朝鮮語を勉強し、たまった小説を読んでいきたいなと思っています。

紹介した本


入門・会話 スタンダードハングル講座〈1〉 この本は確か5巻本です。


小学館 韓日辞典 私が買った『朝鮮語辞典』の後継辞書です。


跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体